少々ショート

思いついたものをかきます。よろしくどうぞ。

物作り系マガジンの創刊号

物作り系マガジンの創刊号って499円であることが多いと思います。
そして、創刊号に収録されているパーツって目玉部品的なものが多いですよね。

ということは、創刊号はその後の号に比べ、コスパがいいと思うのです。

"ならばいっそ、創刊号の付録のみを集めればそれはそれでアリなのでは?"

私は近ごろこんなことを考えています。

創刊号には以下のようなパーツが収録されています。

小さなロボットの「ロビ」を作るマガジンには「ロビフィギュア」

ムーミンハウスを作るマガジンには「ムーミンフィギュア」「ベッド」「玄関ポーチ」

「週間バック・トゥ・ザ・フューチャー」にはデロリアンのナンバープレートとバンパー

「隔週刊マジック」にはマジック3演目の講座

「ナノブロックで世界遺産を作る」には清水寺の檜舞台

...こう見てみるとそれぞれインパクトはありますよね。清水寺の檜舞台にムーミンとロビを乗せて2人に向かってマジックの練習をすることができます。

デロリアンのナンバープレートはどうやったって使えません。

 


やはりこういったマガジンは同じ種類を長く買いましょう。ありがとうございました。

抜け殻

 季子が掘り出したのは使わなくなったツイッターのアカウントだった。これを放置しだしたのは1年前だったろうか。明らかに少なくなったフォロワーの数が月日を物語る。記憶が正しければ、ツイッターを始めてから3代目のものだった。少なくともはじめてのアカウントではなく、溢れかえるツイートの中にはもはや彼女の関心を引くものは殆ど無い。本当に去年までこんなものに朝から晩まで目を通していたのだろうか。やたらとツイート数が多いのは緑毛幼女のプロフィール画像の「ビシッと一言bot」。本当に記憶にない。リプライ欄には星を数えるbotとパクツイを検挙する「無水ちゃん」「貧血ちゃん」「零細ちゃん」...。緑毛幼女をこれでもかというほどに叩いている。緑毛アホ毛幼女が少し年上の女児に袋叩きにされている。いい歳した大人が女児の姿を借りていがみあっている。季子はほとんど何も考えることなく「ビシッと一言bot」のフォローをそっと外した。再びタイムラインを流し読みしていると、やたらと感動話と小動物を流してくる友人もいた。たしか彼のことは今のアカウントではフォローしてなかったと思う。子猫がレーザーポインターを追いかけたりハリネズミが入浴したりしている。可愛いけれどそれだけだ。それにこの動画は何度も見た気がする、もしかしたらひどく似た別のものかもしれないが。子猫たちを上にスワイプすると、あまり見たくない名前も一緒に上っていった。そうだ、彼がいたからこのアカウントは使われなくなったのだった。見ない方が身のためだとは分かりつつも、季子は半ば無意識のうちにアイコンをタップしていた。楽しそうな男女のツーショットと彩度が極端に上げられた景色ばかりが並んでいた。その空は今の季子にはあまりにも明るすぎたが、季子が思っていたほどには季子の心を抉らなかった。そういう時期はとうに過ぎたみたいだ。彼の隣の彼女の形をした空洞は、写真の中の笑窪の女で埋められたのだ。きっとその形はだんだんと笑窪の女の形に変わっていき、やがては彼女そのものの居場所になるのだろう。しかし季子は、まだ彼の空洞が自分の形をしていると感じた。あるいはそれは、季子の自己投影だったのかもしれないが。そうはいってももう戻る場所は残されていない。穴は埋められた。そうして納得しようとするたび、1年前のと今の自分を比べるのを止められなくなる。あの判断は正しかったのか、あの時のあの苦しみと今の帰るべきところのない苦しみとを天秤にかけてしまうのだ。忘れていた胸の奥に詰まったものを思い出してしまった。この重くて冷たい分銅はいつになったら溶けて無くなるのか。カーテンの隙間から差す日差しが疎ましい。冷たい胸に細い指先を当て、目を閉じて横になったまま季子は思索の海に沈み込む。海底にある諦念を目指している。しかしいつもの通り、海底が見えもしないところで息が切れた。水面に戻らなければ。そうだ、海にさえ入らなければ息苦しさを覚えることもない。海底の宝を夢見ることもない。この言い訳もまたいつもの通りであった。しかし水面に上り、いつもとは違う物を持ち帰ったことに気づく。このアカウントは彼といたときの自分の形のくぼみを未だ保っている。彼の隣にはもはや残されていないその形を。いわばそれは彼女の抜け殻だった。紛うことない1年前の彼女の形の抜け殻であった。しかし蝉のそれのように干からびてはいない。彼女の周りで彼女の形を作った者たちは未だに息をしている。だがもう、今の季子には窮屈な場所だ。季子は感慨深くそれを眺めた後、「ビシッと一言bot」をフォローし直し、抜け殻の形を元に戻して、昼食とも夕食とも言えない食事の支度のために起き上がった。